遅筆堂文庫にて


日本じゅうの知人に、

「ここ遅筆堂文庫のある川西町は憲法記念日に成人式(二十歳のお祝い)を行うのだ」

と吹聴している。

 

「さすがは井上ひさしが生れ育った町」

と誰もが感服する。いま、ここに住む私にとってこれは一番の自慢の種だ。

 

日本最高峰の碩学、樋口陽一が自らの知見の総決算とも言うべき『戦後憲法史と並走して』(岩波書店)を世に問うている。青春時代にまでさかのぼって、やわらかく語られるのは、まさしく日本国憲法との並走である。それは同期である井上ひさしとの並走でもあった。まさしく「むずかしいことをやさしく」語った対談録。

そして平和とは知性の産物にほかならないことを深く、私たちに教えてくれる。

 

2人は90年前に生まれた。

すなわち君たちとは70歳のひらきがある。

その「九〇年まえの歴史を繰り返さないための手がかりを、私たち一人ひとりが自前で掘り起すこと」とは別の場所での樋口のことば。

私たちはこれを新人たちへのはなむけの言葉としよう。

 

文・井上恒(いのうえ ひさし)