吉里吉里忌2025によせて
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本日4月9日は、井上ひさしの命日です。
遅筆堂文庫 学芸員の遠藤敦子さんと、井上ひさし研究家の井上恒さんより文章を寄せていただきました。
井上先生の命日に想う
三月中旬、スペインのセビリヤでコロンブスのお墓を見た。
当時スペインを構成していた四国王の王がコロンブスの棺を担ぎ上げている。等身以上の大きさがある青銅製の国王たちが豪華な棺を支えている。しかもそれは高さ1.8mはあると思われる台座に乗っているのだから益々巨大だ。
井上ひさし先生のお墓は、鎌倉のお寺の墓地にひっそりとある。
墓石正面に先生の優しい字体で「ひ」と彫り込まれ、墓誌には戒名「智筆院戯道廈法居士」、本名「廈」が刻まれ、実に楚々とした佇まいだ。
コロンブスの名言に「その空気は4月のセビリアのように柔らかく、吸いこむととても甘い香りがした」という言葉があるそうだが、井上先生の命日の4月9日には、鎌倉の4月の風を感じながらしずかに合掌する。
文:遠藤敦子(川西町立図書館館長・遅筆堂文庫副館長・学芸員)
吉里吉里忌2025によせて
井上ひさしの命日4月9日を記念して刊行された本が二冊ある。
亡くなった翌年(2011年)に出た『「けんぽう」のおはなし』(講談社、絵・武田美穂)と、さらにその7年後の『三人よれば楽しい読書』(西田書店、松山巌・井田真木子共著 装丁・桂川潤)。つまりいずれも井上ひさしの宝物である「けんぽう」と「ほん」にまつわる。
武田美穂さんは2023年、フレンドリープラザで「絵本ライブ」を行ってくれた。 隔年の催しなので今年6月14日にそのバトンを継いでくれるのが長野ヒデ子さん。鎌倉在住で井上夫婦と親しく行き来していた。 桂川潤さんは、2018年、この地でBook! Book! Okitama 2018プレイベント装丁展を行い、本好きを喜ばせた。その3年後の惜別はあまりにも早すぎる。
井上ひさしはよく「御恩送り」ということばを使っていた。川西での、フレンドリープラザをなかだちにした御恩送りは今後も続いていく。
そして先達に続いて私井上恒の縁もまた区切りとして
「命あらばまた他日。元気でいこう。絶望するな」
(太宰『津軽』、しかし井上ひさしはこれを多喜二のせりふにした)。
文:井上 恒(遅筆堂文庫研究員・井上ひさし研究家)