新たなリレーランナーのこと

この9月に終った連続テレビ小説「らんまん」の脚本を書いた長田育恵さんは、井上ひさしの最後の弟子でした。

そして偶然にも、師弟ともに牧野富太郎の自伝を素材にドラマを作っていた。

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あらためてなるほどなあと思いました。

ありとあらゆる植物を集めて、あんなふうに家じゅうが標本だらけになってしまうというのは、家じゅうが本だらけになった井上家をほうふつとさせます。

長田さんは、こう言っています。

「万太郎が植物に優劣をつけないように、全ての登場人物に対して公平なまなざしで見て書くことを大切にしました」

「ちゃんと一人ひとりが自分の意志で生きています。そこを大事に造形しました」

「井上先生が芝居の中で大事にしていたのが“詩を書き込む”ということでした。人間の営みの美しかったり力強かったりする、そういう生きている人間の美しい瞬間を書きとめる、それを凝縮して物語の中に入れ込む。せりふにも一生に一度しか言わない言葉を織り込む・・・言葉に本当の意味が宿る瞬間をちゃんと書きなさいというのが先生の教えでした」(赤旗2023年9月18日)

さらに

「私はこれまでもいかなる作劇においても「人の心が明るい方向に向かう強さ」を書きたいと思っていました」

「井上先生は常に、後世の人に何を“渡す”か考えて作劇を続けてこられました。私はこれを受け継ぎたい」

「今日一日を、あなた自身の心の力で、よい方向に向かわせなさい」。井上ひさし先生のその言葉を胸に、私は今、ようやくスタートラインに立った、という気持ちでいます」(婦人公論2023年12月号)

 

2023年11月16日、井上ひさし89回目の誕生日。

数えならば90歳すなわち卆寿である。

彼の「思い残し切符」は確かに次の世代へ引き継がれた。それを寿ぐ。

 

井上恒


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文・井上恒(井上ひさし研究家/川西町地域おこし協力隊)



婦人公論2023年12月号